聲
――ドサリ。
もう何人目になるかも分からない天人を斬り捨てる。返り血が自身の頬に跳ねるのも気に止めず、今にも一雨来そうな曇天を見上げて“俺”はにんまりと笑った。
「ぎ、ん……時?」
聞き慣れた声が背後から聞こえ、“俺”は笑顔のまま振り返る。聞き慣れた声の持ち主――高杉は、目を見開いて此方を見やる。高杉が驚くのも無理は無い……と思う。だって、ここ最近戦が終わっても一人で戦場に残って残党共を殺しているのはこの“俺”だ。そして、その事を知る者は居ない。そう、たった今高杉がこの場に来るまでは。
「なあ、高杉い」
クスクス笑いながら、もう既に躯と化しているモノに刀を突き立てる。突き立てた箇所から、赤い液体が溢れ出す。ぐちゃぐちゃと肉が斬れていく感触が刀から刀を握る手へと伝わってくる。
「俺さあ……どうすればいいか分かんねェの」
頬を伝って口元へ流れてきた返り血をぺろりと舐めて、目を細める。視線の先にいる高杉はこの状況を理解出来ていないのだろう、未だ目を見開いたまま愕然としていた。 それが面白くて喉を鳴らして笑ってやったら、高杉がようやく“俺”の名を呼んだ。
「銀時……帰ろう、ぜ」
「……帰る?」
ハハッと乾いた笑い声を上げて、“俺”は骸から刀を抜いて目の前の高杉の喉元を捉える。
「…………ッ、おい銀時ィ!」
困惑したように叫ぶ高杉を無視し、“俺”は続けた。
「帰るって……何処にだ?」
「……は?」
“俺”の刀を握る手が震えた。
「俺の……夜叉の居場所は戦場だ!他に帰る場所なんざありゃしねェんだよ!!」
――ドスッ
「ぐあ……ッ!」
叫びながら高杉の襟元を掴み、自身の方へと引き寄せて持っていた刀をその左目へと突き立てた。高杉の左目からは面白いくらいに血が溢れ出て、その血がまた“俺”の顔へと降り掛かる。
「う……ぐッ、」
「…………聲が……聞こえンだよ」
地面に崩れ落ちた高杉に馬乗りになって、刀に手をかけながら“俺”はポツリと呟いた。
「殺せって……四六時中頭ン中で喚きやがる……」
ぎゅ、と刀を握る手に力を込めて痛みに呻く高杉を見つめる。
「なぁ高杉、俺を――……」
後に続くはずだった“俺”の願いは、いつの間にか降り出した雨の音に掻き消された。