Aizen

水面下の狂宴

「……おんし、何しちゅう」
 血濡れの刀を片手に握って舌舐めずりをする自分と同じ姿形のヒトを呆然と見つめる。彼の足元には大勢の部下が倒れて呻いていた。彼は此方をチラリと見るとそのサングラスの奥の目を細めてニヤリと笑った。
「見てわからんがか?」
 ぞくり、と。笑顔のまま己に向けられた抜き身の刃のような冷たい殺気に身震いする。
「……わからん、ぜよ」
 心臓の音がやけに五月蝿い。己の胸をきつく握る。まるで戦争でもあったかのような惨状に、息が乱れて仕方無い。何故、どうして、そんな事ばかりが頭に浮かんでは消えた。
「おまんが笑うから、わしは狂うんじゃ」
 ぴちゃぴちゃと床に広がる血溜まりを踏みながら、此方に向かってくる彼は口元に笑みを乗せたままゆっくりとその刃を己の首筋に添えた。
「おまんのその笑顔が……わしを駆り立てる」
 彼の瞳が淡い光を帯びる。
「……がか」
 小さく呟いた己の声が聞き取れなかったらしく、彼は怪訝そうな顔をした。その彼の胸倉を掴み、震えながら叫び声を上げた。
「たったそれだけの理由で、わしの仲間を殺したがか!」
「……ああ」
 彼はニヤリと口角を上げ、嬉しそうに口を開いた。
「そうじゃ」
「……!!」
 振りかぶられた刃を咄嗟に素手で掴み、懐から出した銃の引き金を引いた。ドオン、と銃声が響く。弾は彼の頬を掠め、そのまま壁に当たったようだ。
「……許さん」
 銃口から上がる煙を吹こうともせず、そのまま彼に向かって構える。震える声は怒りからか悲しみからか。
「おんしだけは、わしが殺す」
 その言葉に、彼は酷く喜んだ顔をした。

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