Aizen

鬼ノ仔

 どこからかかあかあと烏の鳴き声がする。その真っ黒な羽を羽ばたかせ、逢魔が時の戦場跡に降り立った烏は転がっている死体をつついて食らいつく。その様を刀を抱えたまだ幼い子どもが見つめていた。銀色の髪に、赤い目。その子どもは烏に話しかけた。
「……それ、食えンの?」
「……美味いの?」
 烏は子どもの方を見てかあ、と鳴く。
「…………そう」
 子どもは呟くと、手にした刀を鞘から抜いて近くにある死体に手をかけた。ぐさ、ぐちゃ。死体の腹を裂いて手を突っ込む。 臓物を取り出してみれば、そこから血がぼたぼたと滴り落ちる。
「……ほんとに食えンの?」
 烏は首を傾げてばさばさと飛んでいった。
「……なんだよそれ」
 ポツリと呟いた声は届かずに空中に溶ける。がぶり。食らいつく。ぐちゃぐちゃ、くちゃ。ごくり。咀嚼する。
「……ん」
 手も腕も、口の周りも真っ赤。着ていた着物の袖で口の周りを拭う。途端に赤く染まる。子どもは、別の死体を引き寄せて刀を振りかざす。が、その死体の袂からころりとまだ食べられていない握り飯が転がり出た。
「あ、」
 いい事もあるものだとその握り飯を拾い上げて死体に腰掛ける。ぱくり、握り飯に食らいつく。先程の臓物よりかはだいぶマシな味がした。夢中になって食べていると、頭の上にぽん、と何かが乗る感触がした。

「――屍を食らう鬼が出るときいて来てみれば…………君がそう?」

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