Aizen

Waltz Of Anomalies

 笑い声が、聞こえる。己を嘲笑う声が四方八方から。嗚呼、鬱陶しい。鬱陶しくて鬱陶しくて仕方無い。耳障りな声が響く。黙ってくれ。頼むから、その喚く口を閉じてくれ。ああもう、煩い。煩い、煩い煩い煩い。いい加減に――。
「黙ってくれ!!」

   */*/*

 ぱちりと閉じていた目を開ける。夢、だったのだろうか。あの、頭が割れそうになる程響いていた笑い声は。否、笑い声だけではなかった。笑い声に混じって何かを喚いている口があった。それは何と言っていたか。
 思い出そうとしても、あの耳障りな笑い声が邪魔をして上手く聞き取れない。
「……ッ」
 頭が、可笑しくなりそうだ。身体を抱き締める己の手が、腕が、震えて仕方無い。
「クロ?」
「!」
 何時の間にか、黒時が隣で己を覗き込んでいた。
「どうしたの……?だいじょう、ぶ?」
 心配そうに俺に声をかける彼の口が、声が、あの喚いていた口に見えて思わず彼の肩を掴む。黒の顔が少し歪んだのを見ると、思ったより力加減が出来なかったらしい。俺はこんなにも余裕が無かったのか。
「い、たい……よ、クロ……ッ、離して……」
 ああ、ごめんな。俺は、どうやら“俺”をもう制御出来ないらしい。
「思い、出した……」
「な、にを…………?」
 苦しげに、しかし不安に駆られて俺を見上げてくるその顔も、その目も口も、存在自体が強く叫んでいる。殺せ、と。本来ならばオリジナルにしか向かないその殺戮衝動が、まさか御前にまで向くなんて。頭が可笑しくなりそう、なんじゃない。
 俺はもう、頭が可笑しいのだ。
「……殺さなくちゃ」
 満面の笑みを浮かべて呟くと、側にあった木刀を掴むと目の前の己と同じ存在に向かって振り下ろした。

「……?」
 ああ、オリジナルが見える。困惑しているような顔。もうすぐだ。もうすぐ、御前をこの闇の中へと引きずり込める。
「……!」
 ああ、やっと。やっと御前と正面から殺り合える。……さぁ、踊ろうか。

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