未来融解
荒い息遣いが聞こえる。ぜえはあと短い呼吸を繰り返して少し苦しそうに、それでもその紅色の瞳は強い光を伴って此方を真っ直ぐ見据えていた。
「……銀時?」
周りの喧騒が聞こえない。私は確かに処刑されるはずだった。あの子らを護ることが出来るのならばこれも甘んじて受け入れようと、自らの終わりを嘆くこともせずに静かにその時を待っていた。だが、やってきたものは自らの終わりなどでは無く、己の想像を遥かに超えたものであった。目の前の銀色は己のよく知る幼い姿よりも成長していて、どこか大人びていた。その姿に、ああ、大きくなったんだなと頭の隅でぼんやりと思う。
そうしているうちに銀色に拘束を解かれ腕を掴まれた。先程から困惑している私とは裏腹に銀色の彼のほうは落ち着いているようだった。いや、それではいささか語弊がある。彼は落ち着いているように見えるだけで、その目には僅かな憂いが映っていた。
「…………逃げますよ」
銀色の彼は私の耳元でそう囁くやいなや私をひょいとその背中におぶさってさっさと走り出した。慌てて掴まった彼の背中は、温かかった。
*/*/*
どれくらい走ったのだろうか、もう追手は来ないように見えた。だが彼は走ることこそ止めたものの、私を背中におぶさったまま歩いている。この道は私が嘗て出会ったばかりの幼い銀色を背中におぶさって村塾へと帰った道だ。夕暮れの心地良い風に、黄金色の薄が揺れている。お互い、無言だった。どうしてお前がこの時代にいるのか、どんな想いで私を助けたのか、聞きたいことは山ほどあったが、口に出すのは躊躇われた。ただ、あの時と立場が逆なだけ。そう思うと無性に照れくさくなってきて、私は銀色の背中に顔を埋めた。
「……馬鹿ですね」
本当に、馬鹿だ。お前も、私も。
お題:「大切な人に」「おんぶされて」「バカ」という吉田松陽